略奪ウエディング

情熱に包まれて

「早瀬さん、このオーナーの所有リストを至急出してくれないか」

「はい、分かりました」

――あの日から二週間。
課長と私の関係は、片思いの頃と変わらない状態にほぼ戻っていた。

思いがけずにプロポーズされて、さらに甘く強引に心を奪われていったあの二日間の出来事がまるで夢であったかのように。

事務的に用件だけを告げて歩き去る課長の後ろ姿を見つめる。
蕩けるような笑顔も、キスの余韻に浸る艶のある顔も、もう私は見ることができないのだろうか。

あの日、自分でも信じられないほどの大胆さで課長を求めた。
あれから何度後悔しただろう。
泣き疲れ、悲しみに支配され、苦しんで…やがて涙も枯れてしまった。

泣いても、望んでも、彼はきっともう、私を見ない。
生まれかけていた、課長の中の私に対する気持ちはもうよみがえることはないのかも知れない。

「ちょっと~…本当にどうしちゃったのよ。片桐サマと最近ちっとも話していないじゃない。結局二人がどんな感じなのかも全く教えてくれないしさ~」

そんな二人の様子を見ていたスミレが不思議そうに言う。

「私にも…分からないのよ」

私は片思いの頃よりも切ない思いで課長を見続けながら言った。

「何なのよ…、ラブラブだったくせに…」

スミレも私の表情を見てこれ以上は何も言えなくなったのか、黙り込んだ。


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