略奪ウエディング
――あれから二年。

私は予想通り課長に惹かれ、今日まで課長を夢中で見つめてきた。

気持ちを今、吐き出すまでにどれだけの葛藤と戦ってきただろうか。

でも、もう、明日からはない。
私の心の中から課長は消える。消してみせる。
自分から恋の結果を急いだのは初めてのことだった。
二十六歳になり、夢見る時期はもう過ぎ去ったのだと自覚したからなのか。
それとも、降って沸いたようなお見合い話を逃すのが惜しいと思ったのか。
いずれにしろ、切ない気持ちを抱えたままで眠る夜が怖くなってきたことだけは確かだと言える。私を包むように温めてくれる人が果たしてこれから現れるのか。そう考えては怯えていた。

「君はそれで満足したのかもしれない。でも、俺はどうすればいいんだ?」

課長の手が、私の手をそっと握った。
まるで逃がさないとでも言うように。

「あの…、どうって」

課長はどうしたいのだろう。
私を責めたいのだろうか。

「ねえ、教えて。君は結婚相手が今は好きなの?」

「え。…好きというか、お見合いで」

「お見合い?」

「ええ。これからお互いのことを知っていくつもりなんです。課長を…これから忘れて…」

課長が私の手を握る力がキュッと強まる。

――「じゃあそれは俺でもいいわけだ」

「はい?」

「君は俺を好きだと言った。結婚する相手が俺になったとしても問題はないだろう」

私は驚きで言葉を失った。

「今から行こう」

「…え。どこ…」

「彼のところに。殴られても構わない。君を守る」

「ちょっと、…待って…」

課長に手を引かれて早足で歩く。
何!?なにが起こっているの?結婚!?私と課長が?

混乱したまま課長の背を見つめ、私はどうしたらよいか分からなくなっていた。




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