ラストバージン
トラブルが起きたのは、それから数時間後の事だった。


「そんな……。困ります……」


電話口に困惑の言葉を漏らすと、重本さんが『こっちも困ってるのよ』とため息をついた。


整形から転科して来る患者の受け入れ準備をしようにも内科の患者が個室にいる事で作業が出来ず、とうとう痺れを切らして内線を入れたらとんでもない事を言われたのだ。


午後一で退院するはずだった内科の患者の家族が迎えに来ず、まだ内科での受け入れ準備が出来ていない。
だから、その患者が退院するまでは、内科の患者を引き続きリハビリ科で預かって欲しい。


おおむねそんな内容を聞いた後、腕時計に視線を落とした。
整形からは後一時間もしないうちに患者が来る為、ベッドメイキングや清掃の時間を考慮すればもう余裕がない。


「こちらももうすぐ整形からの患者を受け入れる事になっていますので、これ以上ここにいて頂くのは無理なんです。申し訳ありませんが、そちらで何とかして頂けませんか?」


精一杯丁寧に、出来るだけ下手に。
それを心掛けながら言葉を紡いだ私に、深いため息とともに『リハ科は本当に使えないわねぇ』と嫌みたらしい声が返って来た。

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