齧り付いて、内出血

『コート脱いで。かけるから。』

「おー…。」

『言葉と行動が伴ってないんですけど?』

「んー…。」


もそもそと私を離してコートを脱ぐ。

ん、と手渡されたそれをハンガーにかけながら、何を言おうか思考がぐるぐるする。


こんな遅くまで仕事なんて大変だね、それとも仕事じゃなかったりして?、ところで今日はお昼に何を食べたの…


したいのはどれもこれもそんないたって普通の会話なのに、言い出せない。

「関係ないだろ」って言われたらそれでおしまいだ。


『寒いなら、お風呂入れば?お湯張ってあるよ。』

「お、助かる。」


そのままお風呂に直行。

本当はいくつか普通の会話をして、それからお風呂をすすめたかったのに。

過程をはしょって最終的なことしか言わない、私の良くないくせだ。

事務的な関係ならいいけど対人関係としては――…ああ、そうだ。

私たちは性欲を処理する、立派に‘事務的’な関係だった。

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