*花は彼に恋をする*【完】

***

約束の日。

「…玲花、もうすぐ、着くからな。」

運転席の彼は

目的地に向かって車を走らせながら

助手席に座る私に声をかけた。



翔英さんの彼女になって2週間。

社内で元々フロアが違うし

この期間中の彼は

出張や来年就職予定の

学生対象説明会等で

社外へ出向いていた事もあったからか

普段よりも顔を合わす事が

極端に少なかった。

そんな中でも私のアパートに来て

夕飯を食べてくれる日もあったけど

それ以外は

メールや電話のみの会話だった。

彩羽や羽奈や三橋や赤羽に

報告したい気持ちはあるけど

私自身が夢見心地ゆえに

彼とお付き合いしている

今のこの状況が

泡のように消えてしまわないかと

不安に思ってしまう時もあって

まだ報告出来てはいない。


『…早く会いたい。』

『…玲花、愛してるよ。』


と、翔英さんがメールや

帰る間際に優しく囁いて

キスをされると

夢じゃないと安心出来るけど

…もっと好きだと言って欲しい。

そばにいたい…。と

…強く抱き締められたい。

夢にしないで欲しい…。と

ついつい贅沢な気持ちに

なってしまいそうで怖かった。




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