春に想われ 秋を愛した夏


秋斗と春斗は、双子の兄弟だ。
彼らとの出会いは、私が大学に入学した時だった。

目的の講堂の場所がわからなくて、ウロウロとしている私に声をかけてきたのが秋斗だった。

「あんた、何探してんの?」

かけられた無愛想な声に振り返ると、目つきの悪い男がそばにいて、一瞬怯んで身を引いたのを覚えている。

なんでもないです。と後ずさりしそうな私に詰め寄るように、秋斗は、なんか困ってんだろ? と眉間にしわを寄せた鋭い視線で問うものだから、後ずさりすらできずに私は固まってしまった。
意を決して恐々と講堂の場所を訊ねると、悪い目つきとは正反対のとても親切丁寧な説明で場所を教えてくれたっけ。

私は、ぺこりと頭を下げてそそくさと教えてもらった講堂に行き足を踏み入れたんだ。
すると、ついさっきこの場所を訊ねた相手が、もう席に座っているのが見えてひどく驚いた。

瞬間移動?

首を傾げつつも、さっきはありがとう。と近づき礼を述べると、逆に首を傾げられてしまった。
それが、春斗だった。

二人が兄弟で双子だと聞かされ、私は自分の間抜けな行動に赤面してしまったのを覚えている。

それからだった。
二人とは、何かにつけて話をしたり、行動を共にするようになったのは。

入ったばかりの大学で知り合いもいなかった私は、二人の存在が心強くてありがたかった。

それからしばらくして、塔子とも出会い。
私たち四人はやけに気が合い、一緒にいることが当たり前になっていった。



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