春に想われ 秋を愛した夏
「とうこー」
店内に入り、声をかけながら塔子の座るいつもの席へ行くと、塔子も来たばかりなのか、テーブルにはまだ何もなかった。
「ビールでいい?」
「うん」
塔子が店員さんに生中を頼み、食べ物のメニューを見る。
「今日は、春斗君は一緒じゃないの?」
「仕事」
「そっか。それは残念だね」
「なんか、少しも残念そうな顔に見えないけど」
ニタニタとしている目の前の塔子に言うと、とんでもない。と言ってわざとらしく手を顔の前で振っている。
「塾は、夜が本番だからね」
「そうだよねー」
「午前中の方が、自由が利くみたい」
「休みは?」
「平日が多いかな」
「なんか、休日があわないのって、ちょっと寂しいね」
「しかたないよ。お互い、今更仕事を変えるわけにもいかないし」
学生の頃のバイトならまだしも、成人してちゃんと働いている二人が、恋愛のために転職なんてそうそうできるはずもない。
「一人が寂しかったら、いつでもこの塔子さんが温めてあげますよ」
わざとらしく着ているカットソーから片方の肩を出してみせて、誘惑するような顔つきをしてみせる。
「そういうのは、男の人相手にやってください」
笑って拒否すると。はーい。なんて手を上げている。