春に想われ 秋を愛した夏
「どしたの? ニコニコしちゃって」
オフィスのある階に行ってすぐ、トイレから出てきたミサに出くわすとそんな言葉をかけられた。
「ニコニコなんて……」
していない、と言おうとしているそばから。
「ううん。ニヤニヤかな」
なんて言いなおされて、頬が引き攣った。
「なんかいいことでもあったの? もしくは、いい男に逢ったとか?」
意外と鋭いミサの言葉に、何にもないよ。という言葉が上ずってしまう。
「判り易いから」
ミサに肩を竦めて笑われただけで、その後細かく追及してこなかったことに安堵の息をつく。
席に着いてすぐ、そんなにニヤニヤしているだろうか、と引き出しの中から小さな鏡を取り出して自分の顔を確認してみた。
鏡の中の自分は、別段普段の顔と変わらない……と思う。
角度を変えて鏡を覗き込んでいると。
「ニキビでもできたのか?」
席の後ろを通った同僚の新井君に突っ込まれて、慌てて鏡をしまい言い返す。
「できてないからっ」
「あ、二十歳過ぎたら吹き出物か?」
意地悪に言いなおされて怒ってみせると、さっさと仕事にかかれと言い返されてしまった。
肩をすくめPCを立ち上げて、届いているメールを確認していく。
関係のない営業メールは、一気にゴミ箱へ。
急ぎの用事は、会議資料の請求と広告部署からの商品に対する問い合わせくらいだった。
すぐに商品検索すると倉庫に一着あることがわかり、電話連絡をして急いで向かった。