春に想われ 秋を愛した夏
「ただいまー」
ランチから戻り、既に席についていた新井君へ声をかけると、吹き出物は治ったか? なんてわざとらしく言われて、やっぱりないない。と彼を見ながらミサの言葉を胸中で否定する。
そもそも、新井君が私を好きな図が想像できないし。
秋斗以上にありえないよ。
しげしげと眺めながらいると、新井君が眉根を寄せた。
「なんだよ。人の顔ジロジロみんなよ」
「ああ、ごめんごめん。つい、髭の剃り残しに目がいっっちゃって。一本長いの出てるよ」
吹き出物の仕返しに意地悪をすると、え? マジで?! なんて慌てている。
その慌てっぷりにほくそ笑んでいると、そういえば、と何かを思い出したように私を見た。
「さっき、蒼井宛に客が来てたぞ」
「え? 客? 誰?」
「さあ? 飯食いに行ってるって言ったら。ならいいっ。て帰ってった」
「ふぅ~ん。誰だろう?」
今日は、誰とも接客の予定はないはず。
何か予定を失念していただろうか。
慌てて手帳を取り出して確認しながら他社の営業さんの顔を色々思い浮かべてみたけれど、ピンと来る人もいないし、手帳にも予定は書かれていなかった。
「スーツ着た、俺らくらいの年の奴だったけど。営業で来てるやつじゃねぇの? 蒼井は、意外と他社の社員に気に入られてるみたいだし」
気に入られてるなんて。
「新井君まで、何言ってんだか」
呆れたように言い返すと、俺までってなんだよ。とぶつぶつ隣で零している。