春に想われ 秋を愛した夏
突然のことに目を丸くしている私に、毎回そんな顔して驚くことないだろう。と秋斗が苦笑いを零している。
相変わらずの態度に、こっちには驚く理由があるのだ、とすぐにでも言い返したいのに声にならない。
やっと出てきた言葉は、間の抜けた質問だった。
「何、やってんの?」
三度目の偶然? にしても、残業か。なんてまるで……。
そこまで考えて、期待している自分におかしさを感じて気持ちを振り切った。
何を今更期待することがあるだろう。
知らず唇を噛みしめ、それでも黙って通り過ぎることもできずにいると、大好きだった目が私を見て告げた。
「待ってた」
その一言に、心臓は判り易いほどに反応した。
好き過ぎて逃げだした相手にそんなことを言われて、平常心でいられるはずもなく。
期待してどうすると嘲ったはずが、そんな気持ちは紙よりも軽く翻る。
凛とした月に見守られながら、それでも期待をするなと言い聞かせる。
なのに、訪ねた声は想いに震える。
「――――……誰を?」
欲しい答えを期待して胸が高鳴り、秋斗の口から出る言葉を待ちわびる。
「香夏子を」
瞬間、自分でも驚くほどに更に跳ねた心臓と、顔が熱くなっていくのがわかった。
期待していた答をまんまと返されて、秋斗の言葉に飛び上がりたいほど嬉しくなった。