春に想われ 秋を愛した夏
一度振られた相手にのこのこと着いて行った先は、あまり気取らなくてもいいような和食のお店だった。
常連なのか、暖簾をくぐって入ると、女将がいらっしゃい。と柔らかな親しみのある笑みで迎えてくれ、奥の席へと案内してくれる。
あったかいお絞りを少し冷ますようにして手渡されたあと、秋斗がメニューを渡してよこした。
「冷たいお絞りじゃないところが、粋だろ?」
渡されたメニューを受け取ると、サラリと店自慢をする。
私は、何も応えずメニューを開いた。
無視するような態度にめげる事もなく。
寧ろ、そんな態度など昔からのことだとでも言わんばかりに、秋斗は何を気にする風でもなく目の前で飄々としている。
「栄養あるもん食っとけよ」
のこのこと着いてきたくせに、上目線で指図されることが悔しくて、感じの悪いまま私は無言を通した。
愛想もなくいる私に女将がいい印象を抱かないと思っても、二度と来ないつもりでいたからどうでもよかった。
だって、このお店に連れてきた女の人は私だけじゃないはず。
秋斗は、昔からもてていた。
とっつき難いわりには、友達も多く。
しかも、男友達だけじゃなく女友達も多かった。
いつも四人でつるんでいたけれど、秋斗にはしょっちゅう色んな女性からメールや電話が来ていて、
彼女でもないくせに、私は何度焼きもちを焼いたことか。
春斗だって、呆れていたくらいだ。
きっと今だってそういう女性が、秋斗の周りにはたくさんいるだろう。
そのうちの一人だなんて思われるのも癪にさわる。