エターナル・フロンティア~前編~
プロローグ

 白い壁に囲まれた広い室内を人工的に生み出された光が、眩しく照らしている。その明かりは部屋にいる人間の数を教え、更に存在している機械の形状を鮮明にする。また感覚が伝えてくるのは、何とも表現し難い薬品の匂いと電子音。そして、忙しく動き回る者の足音。

 此処は何かの研究室らしく、男女問わず皆白衣を羽織っていた。どのような研究が、行われているというのか。これから一体、何がはじまるというのか。今の状況だけでは、知る由もない。しかし行き交う人々の表情から窺い知ることは、これから慌しいことがはじまるということ。

 部屋の中は煩いほど騒がしく、まるでこれから戦争が起こるかのような緊張感があった。科学者(カイトス)の中には、歩きながら資料に目を通す者。ホログラム型のディスプレーに向かい、キーボードを打つ者。また重厚なガラスの先の部屋に赴き、作業を行なっている者など様々だ。

 彼等が互いに語り合うのは、専門用語が混じった会話。それは到底凡人が理解できる内容ではなく、まるで別世界の言葉を喋っているかのようだ。ふと、椅子に腰掛けキーボードを叩いている一人がマイクのスイッチを入れ、硝子の内側で作業をしている者達に話し掛けた。

「引き続き、次の実験に移る。早めに、作業を進めてくれ。時間が掛かると、後々が面倒だ」

「了解」

 機械を通した声とは思えないほど、正確な声音が響く。作業が行なわれている部屋は、機械類が並ぶ部屋より数段低い場所に存在した。其処は、分厚い壁と特殊な樹脂を仕込んだ硝子に囲まれた簡素な室内。しかし狭い室内には高性能のコンピュータが並び、物々しい雰囲気を醸し出していた。

 其処には幾人もの人間が、慌しく動いている。そして中心に存在する実験台のような物の上には、科学者とは別の人物がいた。実験台の上に横たわる黒髪の少年。手術の時に用いられる服を纏い、身体には様々なコードや心拍数・脳波を測る機械が取り付けられている。

 また何かの目的があってのことなのか、少年の視界を遮る目隠しがされていた。手首には点滴用の針が刺され、薄気味悪い赤い液体と透明な液体が同時に投与され続けている。また神経系の反応を見る為なのか、点滴の物とは違う針が数本左右の腕に突き刺さっている。

 それは、痛々しい光景といっていい。少年の体内に存在する神経が働いていないのか、身体が全く動かない。また実験台に固定する名目で少年の両手足を丈夫な金属繊維で作られた布を巻きつけられ、周囲にいる科学者は次のデータを取る為に少年に取り付けられている機械を弄る。
< 1 / 580 >

この作品をシェア

pagetop