バニラ
バニラ
「困りました。バニラオイル切れてしまいました。
 たしか、ストックも終わりだったはず。

 竹居さんちょっと買って来てくれませんか?」

ランチが終わって、賄いを食べていた私に
和臣さんは声を掛けた。
「はい。」

「あ、ゆっくりでいいです。今日の種はもう仕込んであるから
 ランチも終わったし。」

私は頷くと、
昼食も早々に
買い物に出かけた。

就職してすぐ、リストラになってしまった私は、
日払いの派遣の仕事をしていた。

そこで知り合ったのが、
和臣さんだった。
彼は、調理学校を出てバイトしながら、
自分の店を持つために、朝も昼も働いて資金を貯めているのだという。

何にもビジョンがなく、ただ漂うように時間に浮かんで生活していた私は、
熱く夢を語りそれに向かって頑張っている彼をに憧れ、
恋をした。

でも、その思いは打ち明けることないまま、
和臣さんは、もっとお金の稼げる仕事を選んで
派遣を辞めてしまった。

やめる前の日に彼は私にこう言った。

『店ができたら、手伝ってくれますか。』

嬉しかったけど、
そんな誘い、
社交辞令だと思ってた。

だけど、和臣さんは、半年後、
『約束だったでしょう?』

懐かしい声で連絡してきた。

そう、彼はついにこの春小さなカフェをオープンしたのだ。
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