桜まち 
忘れられない人





  ―――― 忘れられない人 ――――




パーティーがお開きになり、同期でも部署が離れてしまった者同士が仲良く集まり始めると、同窓会のように二次会へと流れて行く姿が目に入った。

そんな中、何人かの誘いを断り、私は真っ直ぐ帰ることにした。
酔った佐藤君に誘われても面倒なだけだし、何より慣れないヒールで足が痛くて仕方なかったんだ。
この長い一日に疲れてもいたし、家に帰ってヒールに縛られ続けていた足を投げ出したい。

「おーい。藤本ー。二次会に行こうぜ」

同期の子達に誘われた櫂君が、隣に立つ私の顔を見てどうしようか迷っている。

「行きなよ。同期で飲むなんて、最近じゃなかなかないんじゃないの?」

そもそも、同じ部署の先輩だからって、私の顔色を窺う必要なんてないのに。

「ほら、行くぞ」

迷っている櫂君を、同期の社員が強引に連れ去って行く。

「また、来週ねー」

連れ去られる櫂君に手を振り、私は一人会場のホテルをあとにする。
痛む足で電車に乗って帰る元気はないので、ホテルの入口から直ぐにタクシーに乗り込んだ。
会場の出口で渡された、参加賞のボールペンをバッグに放り込み、タクシーの背もたれに寄りかかる。

「メチャクチャ疲れたなぁ……」

ポソリ呟いて、夜の流れ行く街並みを眺めた。

キラキラと光る電飾たちが眩しすぎてゆっくりと一度瞬きをすると、さっきまでの喧騒が嘘みたいな車内の静けさにほっと息をつく。

窓から視線を自分の爪に移し、パッと目の前に広げてみた。

「結構可愛いよね。これ」

爪の上で降る雪に目を細めた。
だけど、この爪だとキーボードが打ちにくかったのよね。

我ながら、根っからおしゃれには縁遠い発想だな、と苦笑いが漏れ出てしまった。


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