アイツ限定
プロローグ


「ねぇねぇ、君可愛いね。こういう仕事に興味ない?」



道端を歩いていると、いつものように声をかけられるあたし。

目の前には、スーツでびしっと身なりを整えた、40代くらいのおじさん。

少し下を見れば、”金田芸能事務所”と書かれてある名刺。


またか……



女の子にすれば、166㎝という高い身長。

少し毛先をワックスで遊ばせた、耳にかかるかかからないかぐらいの短い髪。

高めのヒールと、ショートパンツ、シンプルなTシャツという、体のラインが良く見える今日のコーデ。

父が言っていた、母親譲りの大きな目と、筋の通った鼻。

100人に、あたしが美人かと聞いたらきっと100人が美人だと答える。

そんなあたしの容姿。

スカウトマンも、放っておくわけがない。



「いえ、興味ないです」



あたしはそういって、再び、足を一歩踏み出そうとする。

しかし、右手をグイッとその男につかまれ、足を止めた。


その瞬間、全身に鳥肌が立つ。


気持ち悪っ……!?


あたしに、触るんじゃねぇよ。



「君なら、モデルのトップを狙えるよ。ちょっと話すだけだから……ね?」



男は強引にあたしの手を引こうとする。


うるさい。


離せよ。


あたしは、素早く、そいつの左横に出て自分の左肩と相手の左肩をくっつける。

そして、左足を思いっきり前に振り上げ、相手の左の膝裏を思いっきり払った。



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