私は彼に愛されているらしい
私は
残業なんて当たり前。

昨日だって一昨日だって、言っちゃえば入社してから殆ど定時で帰れたためしがない。

そんな私、清水みちるも気が付きゃ入社5年目で初々しさの欠片もない人材になっていた。

初々しさどころでもないな、潤いの欠片も無い。梅雨時期の今はせめて大気だけでも潤っていてほしいものだが、有難いことに梅雨の晴れ間が続いて洗濯も悠々に出来る日が続いていた。

とか言っている場合じゃないぞ、今はそれどころではない。

「あんた、一体いくつだ。」

明らかに呆れ顔で吐き捨てられた言葉に驚いて私は目を丸くして立ち止まっていた。

そこそこの身長がある私でも見上げなければいけない目の前の男の顔をガン見して固まっている。

間違いない、竹内アカツキくんは怒っていた。

「…竹内くんはいくつだっけか。」

「ああ!?」

おお!怖い!

低く唸るような凄みに完全に萎縮した私は身体を跳ねさせて小さくなった。いや、怖い。普通に怖い。

「今そんな話してないだろうが。」

「は…はい。」

おかしい。私の記憶だと彼は間違いなく後輩の筈だ。院卒か?だったら年齢は上になるかもしれないけど、社会人歴は明らかに私のが上でしょうが。先輩にこの態度は何だろう。

というか、竹内くんはこんな話し方だったっけ。

「あのおっさんとマジで飯食いに行く気かって聞いてんの。」

「おっさん!?」

おっさん発言に驚きはしたものの、話の内容で誰のことを指しているのかすぐに見当がついた。さっきまで立ち話をしていた他所の部の課長のことだ。

「行かないわよ。あの誘いだって社交辞令かコミュニケーションでしょ?」

今度ご飯でも食べに行かないか、そんな感じで気さくに話しかけられただけの話だ。前々から少し関わりがあって話しやすい課長には好感を持っていた。他愛のない話も沢山してきた。

その延長線なのだと思って、いいですねと返事をしたけど。

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