綺麗なままで
・゜・。☆・゜・。☆・゜・。☆・゜・。
 
 頬を両手で温めるようにしながら、軽くマッサージ。

 化粧水と乳液で保湿した後、少しでも顔色が良く見えるようにと、丁寧にリキッドファンデーションを伸ばす。パウダーを軽くのせてベースメイク完成。

 さすがにつけまつげはやり過ぎのような気がしたので、ファイバー入りマスカラで念入りにまつ毛のボリュームを出してみる。我ながら上出来。

 チークはほんのりピンクベージュ系。最後にヴァニティケースの隅に入っていた口紅を手に取る。新しいリップブラシで丁寧に輪郭をなぞり、グロスも重ねた。

 いつ、いかなる時も、綺麗でありたいと願うのは女として当然のことかもしれない。

 特に、私の母はそういう人だった――。


「どうしてうちにはパパがいないの?」

 私が尋ねると、困惑したような表情を浮かべたまま、決まって母はこう答えた。

「美代(みよ)のパパは、天国にいるから」


 弱冠十八歳で私を出産した母は、夜の仕事で生計を立てていた。

 華やかな女優のようないでたちで、常に多くの男性に囲まれていた母。

 私にはなるべく見せないようにしていたらしいけれど、一緒に生活していたら嫌でもわかる。また男の人と一緒だったんだという、母の艶めいた表情、声、そして匂い。

 女としての母は、娘の私から見てもとても魅力的だった。ただし、同じ男の人とは、半年以上続いた事はない。

 家に男の人を招いた事もない。おそらく、私がいることを隠したまま付き合うには、そうするしかなかったのだろう。私にとっては好都合だったけれど。

< 1 / 12 >

この作品をシェア

pagetop