躊躇いと戸惑いの中で


居酒屋に置かれているワインの味などたかが知れている。
それでも、今は飲まずにいられない。

届いたワインには、グラスが二つついてきた。
当然、訊ねることになる。

「飲む?」

乾君に訊くと、これが飲み終わったら貰います、と届いたばかりのビールグラスを持ち上げる。

「じゃあ、お先に」

手酌しようとする私の手を止めて、ボトルを引き受けた乾君がグラスにワインを注いでくれた。

「ありがと」

いいえ。という風に微笑む顔には、やっぱり余裕が窺える。

彼は、今までどんな恋をしてきたんだろう。
何人の女性と付き合ってきたのかな。

年下?
年上?

今までもずっとこうやって余裕の表情で、恋人を翻弄してきたんだろうか。
どちらにしろ、こんなに年の離れた私に恋愛感情を抱くなんて、なんだか騙されてでもいる気がしてならない。

ああ、そうか。
もしかして、ゲーム?
私が振り回されるのを見て楽しんでるとか?
それとも、こんな年増が落ちていく姿を見て、笑おうとでもしているの?

なんて。
そんな感じの子じゃないのは、解っているんだよね。

きっと、恋愛に真っ直ぐな気がするんだよ、乾君て子は。
さっき私を迎えてくれた笑顔だけで、わかっちゃうもの。

だけど、何で私?
若くて可愛いほうがいいと思うけど。

自分で言うのもなんだけど、実際お肌は曲がり角だし。
上司に当たる人となんて、付き合ったって面白くもなんともない気ががするんだけど。

それに、そう。
結婚だよ。

考えるなんていってくれたけれど、そんな簡単なことじゃないよ。
恋愛と結婚は、違う。
結婚はただ楽しいだけじゃ、やっていけないはず。
それを若い彼に押し付けてしまうのは、どうにも気が引ける。
そもそも、河野にさえ気が引けているんだから。


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