小悪魔的な君
私の人生に現れた彼


私の人生にはもう絶望だ。


思い返せば20歳から今日までの9年間、良い事なんてまるで無かった。


高校卒業後、ファッションデザイナーになりたいと思った私が服飾系の大学に入学したのは、やっと見つけた夢に向かっての大きな第一歩だった。

だから入学後はよし、これからだ!なんて、明るい未来が私の目の前にずっと広がっていた…はずなのに、入学して一番に知ったのは、今までずっと専門知識を詰め込んできた同学年の生徒とのレベルの差。本気度の違い。そして何より私を苦しめたのは、持って生まれた物の違いが露わになった事。

才能。それが無い私がそこで通用する筈もなく、そんな学校ですら落ちこぼれてる私がその世界で生きていける筈もなく、結局私は大学卒業後、普通にアパレル企業の就職し、販売職に就く事になった。所謂ショップ店員ってヤツだ。

洋服は好きだ。でも…やっぱり販売職は向いてない。それに気付いたのは割と早くて、それからはもう辛いな、でも頑張らなきゃな、辛いな、でもやらないと…の繰り返し。やれる事をやって頑張って頑張って仕事に真面目に取り組んで帰って寝るだけの日々を過ごしてるうちに、気づけば私は今日、29年目の誕生日を迎えている。


29歳、金なし趣味なし男なし。

ついでに30歳までの時間もなし。


「ショップの中で最年長の私の気持ち分かる⁈ 向いてないのに店長とかやらされてやってしまう私の気持ち分かる⁈ だからつい口うるさくなっちゃって影でババァ呼ばわりされてる私の気持ち分かる⁈ 」

「…あー、毎度の事ながらすみれの話は心が辛い」


そして、「せっかくの誕生日なのに残業上がりの終電前にあたしとサシで飲んでベロベロになってる、そんなあんたの現実を思うともっと辛い」なんて、向かい合った私の前で同情するような視線を送るのは、数年前に寿退社したかつての同期、琴乃である。

私の職場の近所だからと、今日は飲みに付き合ってくれたのだ。…おそらく、一人で何もなく終わろうとしていた私の誕生日を不憫に思って。いや、確実に。

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