夜が明けたら、君と。
一夜の出来事

遠距離恋愛をしていた彼から、「別れよう」って言われたのはよりにもよって“いい夫婦”の日の前日だ。

ふざけんなっての。三連休だよ? 
ずっと前から会いに来てねって言ってて、部屋も綺麗にして待ち構えていたのに。

電話だけで『やっぱりいけなくなった。ゴメン、俺他に好きな子ができたんだ。別れて』ってひどすぎる。


そして私は現在ホテルのバーで一人で酒を飲んだくれている。

カワイイ女ならば、友人にすがって泣けただろう。
でも私には無理。惨めな自分とかさらけ出せない。

彼とは三年付き合ってて、遠距離になってからは一年。

仕事は辞めたくなかったけど、いつかは彼との結婚を夢見てたし、そうなるだろうとも思っていた。
その前提で、結婚を切望する友人たちの相談に乗っていただけに、振られてボロボロになった姿なんて見せたくなかった。


「……大丈夫?」


気がつけば隣に男が居た。

朦朧とした頭で目に止まったところといえば、元カレになってしまった男とよく似た骨ばった手だ。
薬指にシンプルな指輪が収まっている。

既婚者か、と思って気を緩めたのは確かかもしれない。

顔を上げてみると、三十台半ばくらいの男性だ。
スーツ姿におしゃれなネクタイ。ゆるい笑みを浮かべて私を見つめている。
一人……にも見えないけど、話しかけてくるくらいだから一人なんだろうか。
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