幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
第一章

決意



慶応3年、12月。


あたしと総司が祝言を挙げる、少し前のこと。

王政復古の大号令が発せられ、慶喜公は将軍職を辞職。

京都守護職ならびに京都所司代が廃止された。


朝廷が発したこの大号令で、一部の公家と5藩に長州藩が主導する新政府が樹立。

しかし、諸藩大名がこれに黙っているわけもなく、結局は徳川幕府による大政委任の継続に向かい、諸外国との会談が進められていた。


「鈴木に逃げられただと!?」

「もうしわけありません!幹部の皆様の留守を狙われまして」


祝言という名の宴会から伏見奉行所に帰って来るなり、あたしたちは驚愕の事実を知る。

油小路事件で捕縛し、拷問して話をさせた鈴木三樹三郎が、監禁されていた部屋から、忽然といなくなったんだ。


鈴木はもちろん手足を縛られ、声も出せない状態で監禁されていた。

しかし、幹部たちがそろって留守にしていた今日、監視役の隊士が、部屋の前で血まみれで倒れている、交代するはずだった隊士を発見。


部屋の中を見ると、鈴木の姿がなかったという。


「御陵衛士の残党が、まだ近くにいるってことだ。
殲滅できなかったのは痛いが、しょうがあるめえ。
各々、じゅうぶん注意しておけよ。相手はもののけだ」


すっかり酔いの冷めた顔で怒鳴る副長に、幹部たちはただ黙ってうなずいた。


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