追憶のエデン

Prologue

｢目が覚めた？
久しぶりだね。僕の花嫁殿。｣



瞼の裏からでもわかる程の光が差し込み、それと同時に浮上した意識。
そして目覚めと共に視界に映ったのは、月の色と同じキラキラと輝く艶やかな髪と、海の様に深いサファイアブルーの宝石みたいな瞳を持つ、この世の者とは思えない綺麗な男の人の笑顔があった。


(……誰？……ここは…何処なんだろ？)


ふわふわとした意識と、どこまでも広がる真っ白な空間。
しかしそんな真っ白な空間を彩るかの様に、あたしの下に敷き詰められた無数の真っ赤な薔薇のベッドと知らない綺麗な男の人。
重なり合った視線は、どちらも一瞬たりとも外される事なく見つめ合ったままだった。



｢なぁに？その反応。
うーん…って事は、そういう事か……。
じゃぁ……その姿では、初めましての方が相応しいかもね。｣


差し出された手を取れば、添えられた反対側の腕に支えられ、ゆっくりと身体を起こされる。


(…その姿？…何のことだろ？それに花嫁がどうとかって言われた様な……。)


｢――痛っ…！！｣


ぼんやりとした頭で言われた事を思い出していると、突然襲って来た突き刺さる様な痛みに思わず頭を押え耐える様にうずくまれば、信じられない言葉が横にいる彼の口から落とされる。


｢あぁ…やっぱりか…。人間の魂の記憶を呼び戻すとなると、僕の術では強過ぎるのか。
イヴ、これは副作用の一種に過ぎない。でも…直に訪れる僕との幸せな時間の再来の代償だと思えば、君なら耐えてくれるでしょ？
それに…



――忘れてる、君が悪いんだ。｣


(…え？


何を言ってるの？
あたしが何を忘れてるっていうの？)


だんだんと激しくなっていく頭痛に吐き気がする。そしてクラクラとボヤけていく意識と反して、頭の奥が何かを拒絶するかの様に、血管の伸縮と共に激しく脈打つのが分かる。


｢……ねぇ、素直に受け入れてよ…。｣