初恋 二度目の恋…最後の恋
第一章

幸せは人それぞれ

 あの日、私は恋をした。


 恋というにはまだ足りないかもしれないけど、私の心を動かしたのは綺麗な汗を流し、マウンドに立ち涙を拭う彼だった。流す汗を綺麗だと思うのも、男の人に心を動かしたのも初めてで、そんな自分に驚いたのを覚えている。


 塾に行く前のとても暑い日のことだった。



 塾に行こうとしていた私はリビングを通り抜け、玄関に向かう途中…。珍しく仕事が休みだったお母さんがソファに座り、身を乗り出すように見ていたテレビの画面に何を見ているんだろうと軽い気持ちで視線を移した。そして、その画面から目が離せなかった。


 試合結果は負けたのだろうか?ピッチャーマウンドに立つ彼は涙を拭うような仕草をし、空を一度仰ぐ。真夏の眩い陽射しは彼を包んでいる。


 陽炎がゆらゆらとマウンドから立ち昇っていた。 



『強豪同士の激突だったの?』


 そんな私の問いに、テレビを見ていたお母さんは勝ったのは名門の高校で、もう一つは無名でピッチャーのコントロールと速球の良さで勝ち上がってきた学校で、夏の甲子園大会準決勝だったのだと教えてくれた。


 勝利した高校は世間に疎い私でも名前を聞いたことのある高校だった。


 割れるような声援の中、マウンドの彼の周りだけは静かであるようにさえ見える。少し視線を上げバックボードの並んだゼロを見詰める彼は何を思い、何を感じるのだろうか?


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