この恋、永遠に。
第一章

仕掛けられた甘い罠

 週半ばの水曜日、深夜。忙しい合間を縫って呼び出された俺は、半分も減っていない水割りを一口喉に流し込むと、吐き捨てるように言った。

「だからそれはそっちで何とかしてくれと前から言っているだろう?」

 イライラした感情を隠そうともせず、指でテーブルをトントンと叩く。

「それが出来ないから、こうして頼んでいるんじゃないか」

目の前にいる男は、悪びれる様子もなく、人好きのする笑顔を見せた。

「…はぁ」

 もう何度目かになるこのやり取りは、今に始まったことじゃない。俺は盛大な溜息を吐くと、もう一度この、一見人当たりの良さそうな、その実計算高い友人に目をやった。

「もう何度も言ったと思うが、俺には全くその気はないんだ」

 ちらりと目配せしてから脚を組み替えると、少しスプリングのきいたソファの背もたれに腕を回し、その勢いのまま背中を預ける。未だ笑みを浮かべたままの俺の友人、葛城孝はほんの僅か肩を竦めてみせた。

「分かっているさ。だけどお祖母様にはそんなお前の事情なんて、これっぽっちも関係ないのさ。早くいい相手を見付けて幸せになってもらいたいと願ってる」

「それが余計なお世話なんだよ」

 俺はまたしても大きく息をつく。孝とは高校以来の親友で、彼は昔からおばあちゃんっ子だった。それは今も変わることなく、孝はお祖母様の俊子さんに頼まれると、嫌とは言えないらしい。

「それにしたってなぁ…俺にその気がないのにこんなこと続けてたって意味もないし、第一相手にも失礼だろ。俺だって面倒なことばかりだ」

 ここ最近やたらと増えた俊子さんからの見合い話に、俺は心底辟易していた。
 孝が早々に結婚を決めてしまったからか、俺がいつまでも独り身でいることが不憫に思えるらしい。
 俺が特定の恋人も作らず、仕事ばかりの毎日だから余計にそう思わせているんだとか。
 敢えて恋人を作らないようにしている男の心理など、所詮女の俊子さんには理解出来ないのかもしれない。

「お前が恋人の一人でも作れば、お祖母様も大人しくなると思うんだけどね。仕事と結婚しそうな勢いのお前のことが自分の孫のように心配らしいぞ」

 ニヤリと口角を上げて笑う孝は本当に食えない奴だ。こいつの口から愛だの恋だのと言った単語が飛び出す方が俺には信じられない。一体どんな言葉で奥さんに愛を囁いているんだか。想像したくもない。

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