フォンダンショコラなふたり 
ティラミスに愛を


「果梨、見てみて、すっごくかわいい! こんなラッピングって日本だけだよ。

けど、チョコレートオンリーだね。ねぇねぇ、どんなイベント?」


「バレンタインが近いじゃない。女の子が勝負にでるためのアイテムよ」


「あぁ、バレンタインデーか。でも、どうして女の子だけ? 

むこうでは、男から女にもプレゼントするよ。そっちの方が多いかも」


「菓子メーカーの戦略に乗せられたのよ。

バレンタインデーは、好きな男の子にチョコレートを贈りましょうって、大々的に宣伝したの。

弥生も高校の時、好きな男子にあげたでしょう。忘れちゃった?」


「でもさ、女から男だけって不公平じゃない?」



言葉の全てにクエスチョンマークをつけて返してくる弥生は、日本人が得意とする 「話を合わせる」 技をすっかり忘れていた。

弥生が日本を離れて何年だろう、それだけ外国の生活に馴染んでいるということ。



「最近は、女の子同士で贈りあうのよ。友チョコ、覚えといて。

男性から女性へも増えてるよ、これが逆チョコ」


「逆チョコ? それが普通でしょう。やっぱりヘンだって」


「まぁまぁ、これが今の日本のバレンタイン事情です。

メインは、女性から男性へチョコレートを贈る日ね」




三年ぶりに帰国した弥生に付き合って、改装が終わった東京駅にやってきた。

外観の美しさにも目を見張っていたが、なにより地下街の賑わいは彼女を興奮させた。



「むこうの駅には、商業地区なんてないよ。

駅は駅、ショップはショップ、日本人ってすごいね、こんなこと考えちゃうんだもん」



どこを見ても 「こんなの、日本だけだよ」 と言う彼女は、高校卒業後海外に飛び出した。

たまに帰国しても、東京を素通りして地方の実家に直行の彼女と会うのは久しぶりだ。

弥生にとって久しぶりの東京は、見るもの聞くもの全部珍しく 「おのぼりさん」 と彼女は言うけれど、私に言わせれば 「旅行で日本に来た外国人」 も同じだ。



「ふぅん……でも、どうしてチョコレートなんだろう? 

ワインとか服とか靴とか、男の好きそうな物でもいいのに」


「知らない。チョコレート業界の力が強かったんでしょう。

ほんっと迷惑してるんだから」


「はぁ?」


「なんでもない」



弥生の言うとおりだ、どうして男性が好む物じゃないんだろう。

甘いもの大好きなスイーツ男子もいるけれど、佐倉さんみたいに 「甘いものお断り」 を全面に出されたらどうしようもない。

会社で背中合わせに座る佐倉さんは、バレンタインデー当日はやや不機嫌になる。

見た目には不機嫌な顔ではないけれど、背中から発せられるイヤイヤモードを感じる身としては非常に居心地が悪いのだ。

それもこれも、彼が甘いもの苦手男子ゆえのこと。

スイーツは苦手なくせにと言ってはなんだけど、恋愛ドラマに欠かせない俳優のような甘いマスクの持ち主は、声まで低くて甘い。

本人は結構硬派で、大学の応援団に在籍していたバリバリの体育会系。

地味にガクランを着て七三分けの髪型だったのに、醸し出す甘さは抑えきれず、女の子の追っかけがいたという伝説の持ち主だ。

というのは、佐倉さんの先輩である課長から聞いたこと。

課長は見た目も中身も、どこをどう切っても体育会系男子だけど。


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