ビターバレンタイン
ビターバレンタイン





 私は料理が得意ではない。
 得意ではないが、全く包丁が使えないわけではない。だから、借りてきた料理本を参考にすれば何とか形になる。
 

 銀色のボール。
 持つ所がピンク色のへら。
 ハートや星の形。

 
 百円均一ショップなんかに行けば、今では一通り揃えることができる。
 板チョコも、飾りも、チョコを流し込み固める型も、全部。


 彼は手作りがいい、といった。私は何をいってんの、といってやった。

 手作りだなんて、祐輔は食べたことないじゃん。

 私がそういったら、祐輔はなんの迷いもなく、そうだっけ、といった。ああ、そうだったか、と。私はそうだよ、と笑った。笑うしかなかった。それ以外に私にはできなかった。
 壊したくなかったから。
 壊れたくなかったから。
 

 ショップ内には、バレンタイン向けの商品が並んでいた。私がカゴに突っ込んだものはイベント用の棚にほとんど置いてあった。同じようなことを考えている客がいて、私は友チョコだろうか、だなんて考えた。友チョコは数が多いから。
 私は入れ物と、包装紙、それからりぼんなんかも揃えた。
 
 
 友チョコと、包装紙にくるまれた箱。中身は同じ。
 手作りがいい、だなんて。



< 1 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop