嘘つきな背中に噛み痕をアゲル。
プロローグ

公園から漏れる街灯は、淡く。雲で見え隠れする月は、夜に突き刺すナイフの様に鋭く。
夜に浮かぶ幹太のシルエットは、私に重なり、――夜から私を隠してしまった。

「離してよ」

両手を掴まれ、壁に縫い付けられたまま、何だか恥ずかしいし泣き顔を見られたくなくて俯く。

「――桔梗」

スルスルと、繊細に幹太の指が動く。ゆっくり、輪郭を描く様になぞるのは、――私の薬指に輝く指輪。

幹太は何度も何度も、優しい手つきで指輪の輪郭をなぞった。


「俺が、言えばお前は困る癖に」
「え?」

「俺は、――ずっと言わない。言えるわけないんだ」

悲痛な、痛々しい声。顔を、見たい。見ては、いけない。
――見上げても、淡い夜の輝きは、上手に幹太の表情を隠した。
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