LOZELO
プロローグ



進路志望調査。なにそれおいしいの。

いつだったかネットの掲示板で見たツッコミを心の中で入れてみても、目の前にあるのは所詮ただの紙っぺらにすぎない。

教室の真ん中辺りの席、という、最悪な環境の中で思う。

進路志望があるなら、もっと"ちゃんと"しますけど、と。

ため息と共に睨み付ける先には、少し高い位置から教室を見下ろす女。


「提出は今週中にお願いしますね」


まぁ、見下ろしてるつもりはないんだろうけど、新しい担任はどこか頼りなくて、私としては何も言われなくて楽だ。

少し目があって、怯えるようにそらされる。

別に睨みたくて睨んでるんじゃない。

私には必要のない紙屑を配ったことに対して、資源の無駄遣いだと睨んでいるのだ。

心のヘドを吹き飛ばすようなあからさまなため息をつくと、もっと気分が悪くなった。

今日この牢獄の中で楽しかったことはなんだろう。

誰一人として解けなかった数学の応用問題が、すらりと解けたことくらいだと思う。


「これでホームルームを終わりまーす」


復唱さえ馬鹿馬鹿しくて、挨拶が終わるのも待たずに空っぽの鞄を机にあげた。



高校二年生。

予定では、もっと勉学に勤しむはずだった。
青春真っ只中のはずだった。


「紗菜ー!帰ろー!」


今日は莉乃の部活が休みらしい。


「ねぇ莉乃、私と席替えしてよ」

「それはいやだよー、窓際で一番後ろって天国すぎて、もう卒業まで席替えいらないしー!」


鼓膜が破れないのが不思議だと思っている。

私が顔をしかめてみてもそれを気にしないのはこの人の根っからの性格。

がっつり香る香水の匂いには、一年も毎日のように顔を合わせれば慣れてしまった。
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