……っぽい。
◆1◆
俺と同居ラブ、始めちゃいます?
「いっそクラゲに生まれたかったなあ……」
閉園時間ギリギリの水族館。
青白い光でライトアップされたクラゲ展示の前で、そういえばクラゲには脳がないことをふと思い出した私は、ぽつりとそうこぼした。
さっきからずっと閉園時間を知らせるアナウンスと音楽が流れているけれど、水族館を出たところで、今日の私には帰る家がない。
そして、これから先も帰れる気がしない。
「--橘先輩っ! 海月先輩っ!」
すると、もう一度、クラゲに生まれたかったとしみじみ思っていたところで、私の名前を呼ぶ声で現実に引き戻された。
ああ、そっか。電話したんだっけ、私……。
なんだかもう、その辺の記憶が曖昧だ。
「一体何があったんですか!? 泣きながら『助けて』って、もうこれ、尋常じゃないっすよ」
駆け寄ってくる様子をぼんやり眺めていると、私の前で立ち止まった彼は、肩で大きく息をしながら心配そうに私の目を覗き込む。
こういうとき、同性はなかなか頼れない。
かといって、異性を頼るにしても、頼っても大丈夫な人とそうではない人とに分かれる。
目の前の後輩男子--笠松準之助は、あの動転しきった状況下にあっても電話をかけられるほど、私の中で“頼っても大丈夫な異性”にカテゴライズされていたらしい。