月だけが見ていた
上原葉子 1
「上原」

パソコンのディスプレイにのみ向けられていた私の集中力は
その低い声によって、ぷっつりと途切れてしまった。


「おい、上原」

「…はい?」


イスごと後ろを振り返る。


「コーヒーおかわり。」


デスクに頬杖をついたまま。
空になったマグカップを軽く持ち上げて、主任は私を見る。


「……」


『いま立て込んでるんで、ご自分でどうぞ。』


なんて
言う権利も勇気も、当然私には無い。
< 1 / 84 >

この作品をシェア

pagetop