立花課長は今日も不機嫌
第1章

①二つの顔を持つ女



太めのアイラインに、普段とは違うアイシャドー。

肩甲骨まである髪の毛は、ヘアアイロンで丹念に巻いた自信作(注:そう言えるようになるまで、実は何カ月もかかっているのだけれど)。


最後に唇にグロスをたっぷりとのせ――……


これで完成、かな。


若干不安を抱えつつ鏡に向かって最終チェックを終えると、メーク道具を片づけて立ち上がる。


――とそこで


「杏奈(あんな)、忘れ物よ」


隣で私同様にメークをしていた霧子(きりこ)さんが、慌てる素振りもなく私を呼び止めた。

その手にウサ耳をつかんで、妖艶に微笑む。


「……あっ、いけない」


これがなくちゃ始まらないのに。

< 1 / 412 >

この作品をシェア

pagetop