斬華
 今日の四条通はいつもに増して人が多い。
 そう広くない通りは、ごった返す人波で砂埃が舞っている。

 コンチキチン、という祭囃子を聞きながら、由之介(ゆのすけ)は足早に路地裏を進んでいた。
 すでに宵の口だ。

 最近は京の町も物騒である。
 毎日のように浪士の斬り合いがあり、下手に時勢を口にすれば胡乱な輩に尾(つ)けられる、といった具合だ。

 由之介は一軒の料理屋に入った。
 通りからは外れた、小体な料理屋だ。
 通された二階の座敷には、昔馴染みの宗助(そうすけ)と五郎(ごろう)が、すでに酒を飲んでいた。

「遅いぞ、由之」

「悪い。どうもこの時分の街中はいかん。祭りの最中やっちゅうのに、胡乱な奴らが目につきよる」

「そうやなぁ。こんなんやったらおちおち祭りも楽しまれへん」

 宗助が、ぼやきながら窓辺に身を寄せた。

「ここは目立たんから落ち着ける店やが、こういう時分は返ってヤバいかもな」

「けど俺らは別に、攘夷や佐幕やいう話をしてるんやないで。単に祭りついでの飲み会や」

 五郎が由之介に酒を注ぎながら笑う。
 そこに女将が顔を出した。

「お久しぶりやな、由之さん。今日は皆で祭り見物ですかいの」
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