【短】きみに溺れる
prologue

レンが初めてこの部屋に来た夜


私はまるで、敵の縄張りに迷いこんだ小動物のように
彼の腕の中で震えていた。


どうして“迷いこんだ”なんて感じたのだろう。

ここは自分の部屋なのに。


「怖い……」

思わず声にして漏らすと、彼はなぜか嬉しそうに眉を下げた。


「怖い」

もう一度言うと、怖くないよ、と彼はささやき、私の唇を噛んだ。




おびえていたのは、あれが私にとって初めてのセックスだったからじゃない。


彼の手で脱がされ床に落とされていく洋服や下着のように

はぎとられた自制心を、もう二度と自分の手では拾えないような気がしたからだ。



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