砂漠の王と拾われ花嫁

プロローグ

(わたし……なんでこんな所に……?)

野山莉世は、いまだかつて見たことがない砂漠のど真ん中にいた。

(ちょ、ちょっと待ってよ……?)

あわてて最後の記憶を思い出す。

(高校から帰って、家族で夕食を食べてお風呂に入って、パジャマ代わりに着ているキャミソールとショートパンツをはいて寝たはずなのに……)

砂漠のど真ん中で、寒さとわけがわからない恐怖にブルッと身震いをする。

(砂漠って、こんなに寒いんだっけ……? ううん。夢だよ。お布団かけなくちゃ。でもお布団なんてどこにもない)

辺りをキョロキョロ見回していると、なにもない砂漠の地平線から太陽が昇りはじめる。

その光景に莉世は目を奪われた。

「うわーっ! きれー」

思わず声が出るほどの見事な日の出だった。朱に染まる太陽が徐々に顔を出し、みるみるうちに辺りを明るくし、地平線から離れていく。

こんなにも美しい太陽を見たのは、十七年間生きてきて初めてだ。

(これって夢だよね? とってもリアルな夢だけど現実にはありえない)

目に太陽が焼きつくくらいうっとりと眺めてから、後ろを向く。振り返って辺りに目を凝らすが、見渡す限り砂漠が続いている。

「だれかー! いませんかー?」

(夢でも叫べるんだ。これは夢。だって、今まで自分の部屋で寝ていたのに砂漠にいるなんてありえない)

夢だと納得して一歩、歩いてみるが、サラサラの砂に足を取られて、莉世はよろけて転ぶ。

一歩踏み出すごとに、砂の中に足がズブッと入ってしまってうまく歩けない。走るなんてもってのほか。

(そうだ……夢って走れないんだよね)

莉世の場合、誰かに追いかけられる夢を見たときも、走れなかった。

(走ることができない。だからこれは絶対に夢)

そう思うと気持ちが楽になって、夢なら冒険してみようと歩き出す。

(まさか映画の世界みたいに、盗賊なんか出てこないよね……?)

砂に足を取られながら歩いていると、昇った太陽がだんだんまぶしくなってきた。右手を目の上にやり、影を作る。

(……なんだか暑くなってきた。もうそろそろ起こしてほしい)

気温も上がってきて、ジリジリとキャミソールやショートパンツからのぞく肌を焼いていくよう。

足元の砂もしだいに熱くなってきて、じっとしていられなくなる。

< 1 / 491 >

この作品をシェア

pagetop