僕らのままで
じれったい──Side 涼
*Side 涼*

「あついっ!!」

 そう叫んだのは、波流(はる)だった。

「どうした?」

 僕は、とっさにトングを鉄板の上に放り出し、彼女の元へ駆け寄った。


 それは、本当に瞬間的なことだった。


 ──別に、カッコつけようとした訳じゃない。ただ、波流の上げた悲鳴に驚いた。彼女の身に、何かが起こるのが、怖かった…──それだけだ。


 紅葉が、はらはらと散った。花の如く、絶え間なく。その隙間から差し込んでくる光は、和やかに優しかった。


「あ…」
 波流が、小さく声を出して、身じろぎした。
「───ありがと。涼クン…」


 気が付くと、僕は彼女を抱き抱えるようにして、パチパチと爆ぜる焚き火から引き離していた。

 そこに、意識の流れというものは全く無かった。彼女が悲鳴を上げた瞬間──脳に思考する暇も与えないほど素早く、僕の身体は波流へと向かっていたのだ。
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