マリッジリング
『橋』


「あはははー!揺れる揺れるー」
「わー!揺らすなー!」
「高いから落ちたらひとたまりもないねー!」
「いいから早く進め!」
「ふははは!人は居ないけどたぶん居たらゴミのようだー!」
「すいません、そういうのいいから向こう岸に行きませんか?」
「ドキドキするね、ドキドキするねー」

 ロープをがっちりと握りしめて座り込み、今にも泣きそうな俺と、ぐらぐら揺れる橋の上を身軽に動き回る笑顔の妻。
 こんな旅行になるとは誰が想像しただろう。

 さて、ここで問題です。高所恐怖症の俺が、新婚旅行で断崖絶壁の吊り橋を渡ってるのは何故でしょうか?

 答えは隣にいる新妻のせいです。

「お前さぁ、このプラン教えてくれた時、ちょろっと橋渡るだけって言ったよな?全長25メートルのどの辺がちょろなのか、聞いていいか?」
「バッカねぇ。そんなの嘘に決まってるでしょ。そういうのを愚問っていうのよ、ぐ・も・ん」

 涼しい顔で俺を罵倒し、吊り橋の上で跳ねる妻。
 あぁ神様。こんな仕打ちを受けるような何を私がしたでしょうか?してたらごめんなさい。めっちゃ謝りますから、ほら、天国とかそういう所から俺の事見て可哀想になりませんか?なるでしょう?なりますよね?お願いだからとにかく早く向こう岸に着かせてください。

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