秘密
◇第1話◇
◇◇◇








「あ。ホントに来た…」



ボソリと呟き、顔だけこちらに向けているのは、五時間目の授業中、私にあのメールを送って来た佐野茜。



彼は誰も居ない理科室の教卓に寄りかかり、少し笑ってこう言った。


「…こっち来て」


私は黙って彼に近付く。


教壇に上がり、彼の目の前に立つ。


すると彼は私の腰に手を回し、グイッと自分の方に引き寄せる。


私はバランスを崩し、彼の肩に鼻をぶつけてしまって。


「ふぐっ…」


変な声が出てしまった。


「あ。ごめん」


鼻を押さえて軽く睨む。


彼はそんな私を笑いながら見下ろし、さらに引き寄せる手に力を入れる。


「とりあえず…キスしようか?」


そう言うと、私の額に自分の額をくっ付けてきた。


私はあまりの至近距離に顔をそらす事も出来ずに、視線だけで下を向く。


「…うん」


私がそう呟くと、彼は右手で頬に耳を挟むようにして手を当てると、私の顔を少しだけ上に向ける。


私は目を閉じる。


彼の気配がゆっくりと近付いてくる。




これが私と彼の秘密の関係の始まり。






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