BLack†NOBLE
Come Prima

────水面に響き渡るカンツォーネ。どこか懐かしく胸に浸透していく歌声だ。


 隣には、ゴンドラが揺れるたびに俺の手のひらをキュッと握りしめる彼女。

 深紅のベロアが張られた特別なゴンドラの上で、不安そうに微笑む愛しい人。


 純白のドレスに身を包み、羽が生えれば天使のように飛び立ってしまいそうだ。


「大丈夫ですか? やはり歩きましょうか、お嬢様」


「だっ……大丈夫よ。私が大丈夫って言ったら大丈夫よ。それにここは川だし。海よりは恐くないわ」



 川か……まあ、そう言われたら、そうなのかもしれないが厳密に言えば少し違う。



 ここは、イタリアの都市ベニス。

 海洋都市として有名なベニスの移動手段は、街を流れる水路をゴンドラに乗り移動するのが一般的。


 ゆっくりと流れに逆らわずに、ゴンドラは俺たちを運んでいく。




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