【短編】ブレンディ・ロマンス
本編
朝、出勤前に砂糖の入っていないブラックコーヒーを喉に流し込みながら見たテレビの占いコーナーでは今週の山羊座は運勢1位。ラッキーアイテムは揺れるピアス。

別に影響されているわけじゃないけどと心の中で言い訳しながら、歩く彼女、鈴原ことりの耳を飾るのは、動きに合わせてゆらゆら表情を変える華奢なチェーンの石付ピアス。


-思いもかけない出来事が訪れるでしょう!-


アイドルのように甲高い声のキャスターが告げた一言メッセージを信じているわけではないけれど、それでもちょっとした「いいこと」でもあればいいなと思ったのは事実だ。

普通に学校に行って勉強して、また普通に地元の中小企業に一般職として就職した。

仕事は2年目に入り、後輩の指導や任せてもらえる業務の幅が増えたことは嬉しいけれど、特別なやり甲斐というのもなく、別に私でないといけないという訳でもない。

25歳を目前に控えて、浮いた話の一つもなし。

親や親戚のお節介な伯母さんからは「もう25歳」と言われるけど、同期や同年代の友達から言わせれば「まだ25歳」だ。

収入も20歳になりたての頃と比べやっと安定してきたのだ。何といわれようとまだまだ働きたいし、遊びたい。

恋愛はしたいと言えばしたいし、したくないと言えばしたくない。
別にどっちだっていいのだ。同級生や友人の中ではちらほら結婚する子が出てくる。

一月の間に何度も結婚式があることだって珍しくもない。

友達や職場の人との会話の中で、冗談交じりに愛や彼氏が欲しいなんてぼやいたりもするけれど、それは言葉だけであって気持ちはそこまでってわけではない。






はっきり言うなれば面倒だった。






―――――――カラン
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