彼の思惑 彼女の魅惑
片想い × スーツフェチ

気怠そうにネクタイを緩めると、煙草を灰皿に押し付ける彼。

伸縮性のないスーツの生地がピンと張る。

動きづらそうにボタンを外すけど、決して脱がない彼は、その姿を魅せつけながら私と視線を絡ます。

そして今日も彼はいつもの歌を口ずさんでいた。

彼の余裕に嫉妬する。

計算?それとも天然?

初めて二人で過ごしたあの日もそうだった。



無駄に大きなベッドがあるだけの部屋に誘い込んで、する事と言ったら一つしかないはずなのに。

彼はスーツのまま横になると、軽くハミングしながら瞼を閉じたんだ。

「その歌嫌い」

私の嫌みは虚しく

「シワになるよ?」

静かに寝息をたて始める彼。

高そうなスーツが台無しだ。

上着を引っ張り脱がそうとすると、彼はうっすら瞼を開き私を見つめた。

まるで 焦るなよ って、言ってるみたいに。

「ちがっ」

私としては、つまらないコンパから抜け出せてラッキーぐらいで。

誘った彼と私の、需要と供給が一致しただけの事。

求めてるわけじゃない。

でも、慌てて弁解する私も、私らしくなかった。

シワだって放っておけば良かった。

一瞬の揺らぎを見逃さなかった彼は、私を抱き寄せ、間近で見つめてくる。

不敵な笑みを浮かべ。

着崩した背広を魅せつけ。

たかが男一人に私が動揺するなんて。

必死で気持ちを立て直し、負けじと彼を見返すけど。

勝負はすぐについた。

彼の口から零れ落ちたのは

「サンキュ」

それだけだったから。

そして私を抱き寄せたまま再び瞼を閉じる。

速まる鼓動。

腕が、胸が、吐息が、熱い。

数えきれないほど抱かれてきた女は、初めて、抱きしめられる甘さを知ったんだ。

寝息を数えながら、私は無性に彼を知りたくなってしまった。

ほんの一瞬の隙をつくほど器用なのに、無防備な寝顔をさらす、大人か子供かもわからない、おかしなこの男の正体を。



そして今日もまた、いつもの部屋で、彼の吐息を数える。
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