君の知らない空
♯0 風が残したもの


芳しい風が、ふわりと頬を掠めた。


じっとりとした熱気が、しつこいほど纏わり付く真夏の夜。


身体に重く圧し掛かる湿っぽい空気を、冷んやりとした風がいとも容易く切り裂きながら通り過ぎていく。


風は一頻り吹き抜けたかと思うと、私の髪を柔らかに踊らせた。絡みついた熱気が解けて軽くなった髪が、まるで喜んでいるように背中で弾んでいる。


はしゃいだ髪を優しく撫でつけられるような心地良さを感じるのと同時に、大きく胸が揺らいだ。


風の過ぎ去っていく方へと振り返る。振り返らずにはいられなかった。


私の目に映ったのは、一陣の風。


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