鐘つき聖堂の魔女
プロローグ


西の帝国ドルネイとその北に位置するネイアノールとの国境付近。

二つの国の国境には互いの侵入を拒むように巨大な山脈が連なり、鬱蒼とした森が広がっている。

生茂った木々は皆空に向かって真っ直ぐ伸び、月はおろか太陽の光さえ拒まんがごとく葉を重ね合い、森の中は一片の光もない。



そんな暗闇が支配する森の中、風が木の葉を揺らす音に紛れて馬が颯爽と駆ける。

三頭の馬が走るその数メートル先には光の球体の様なものが浮遊し、木々の間をぬって右に左に馬を誘導していた。




「遅い!」


真ん中を走っていた女騎手が遅れつつある後方の馬に向かって甲高い声で叫ぶ。

後方の騎手は闇夜で馬を操ることで神経を使い、声ひとつ上げることが出来なかった。

その後ろには、まだ数百メートルは離れているが、物音ひとつ立てず無数の光が追いかけてくる。

後方の騎手との距離が広がる一方で、追っ手がすぐそばまで来ていることに女は舌打ちをし、前方を走る騎手の背中に向かって声を振り絞る。



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