やくたたずの恋
1.おっさん、あらわる。(前編)
 部屋番号の「1108」と、「Office Camellia」と刻まれた表札。
 ここだよね? ここで、間違いないよね?
 クリーム色の壁にはめ込まれた、板チョコのようなドア。その前に立つ雛子は、とくとくとリズムを刻む鼓動を、愛おしく感じていた。
 手に持っているのは、このマンションまでの地図が描かれたメモと、一枚の写真。その写真には、一人の男が映っている。筋肉質の体を、オーダーと思われるスーツで体を包んだ男は、美しく微笑んでいた。若々しく、凛々しい表情を引き締めて。
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