氷の卵
第1章 出会い

フラワーショップ若月

目が覚める。
小鳥のさえずりと、カーテンの隙間から差し込む柔らかい光。
今日も、こうして変わらぬ朝がやってくる。

カーテンを開ける。
まばゆい光に目を眇めながら、窓を大きく開け放した。


「うーん。」


満ち足りた気分で深呼吸をして、伸びをする。
朝の清々しい空気が、胸いっぱいに広がった。


「さて、今日も一日頑張るぞ!」


この一言が、私の活力源だ。

鏡を覗くと、ちょっとだけ寝癖のついた髪で、すっきりと笑う私がいた。
こんなふうに笑えるようになったんだなあ、と素直に感心する。


私は今、一人でフラワーショップを営んでいる。

大学を卒業したての頃は、全然違う職業だった。
でも、いろいろあって、ここにたどり着いて、私は幸せだと思っている。

私が生きる希望も、何もかも失ったとき、手を差し伸べてくれたのは……。


棚の上に飾ってある写真を見る。

私と彼女が並んで写っている。

そのころの私は、とっても不自然に笑っていた。

でもその横で、天使のように笑う人。
それはみどりさん。

みどりさんには、結局最後まで年齢を聞くことはなかった。

彼女は、長老のように何でも知っていて、それでいて時に少女のように振舞う、不思議な人だった。

私を、何も聞かずに雇ってくれた。


みどりさんがこの世を去ってから、あっという間に二年の月日が流れた。

いつの間にか、私はみどりさんの代わりに、店を守っている。


この穏やかな日々が、私の幸せだった。


思い出したくないことは思い出さないで、それでいて、幸せな思い出でその部分を埋めていく。

そんな日々に、私は満足していた。


少なくとも、満足していたつもりだった――
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