オバケの駐在所
杓子定規の療養
「ヒヒヒ、兄さん。
眉間にそんなシワをよせて
どこに行こうってんだい?」

人が行き交う雑踏の街角。
胡散臭そうな
占い師風のばあさんが
何かしゃべっていたような
気がしたが、
俺の耳には入らなかった。

俺は黒いダウンのポケットに
手を入れながら
駅のほうへ向かって
早足で人込みを縫い歩く。

ダウンのチャックと
裾からのぞく
カルティエのバックルが、
足を出すたびに
カチカチとぶつかり
音をたてる。

……今日はついていなかった。
次だ。次がある。

そう心で何度も呟きながら
携帯で電車の
時刻表を調べた。

これからどこかへ
出かけるわけではない。

俺はこの街に用があった。

今日こそはと思い
この街に来たのだが
それもまた
次回に持ち越しだ。

もう何度も
同じ事を繰り返している。
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