課長さんはイジワル
第3話 400億円のミス発注
私が大学卒業後、入社したのは証券会社だった。

何で、証券会社かって?

理由は簡単。

ここ以外、受からなかったから。

就職活動冬の時代。

入社させてくれるだけでもありがたいって言うのと、もう、就職活動はコリゴリだった私は、さっさと就職活動に見切りをつけて、悪魔の書類にサインした。

配属は、債券トレーディング部。

カッコ良さそうな名前でしょ?

何のことはない、債券って言うのを売ったり、買ったりをする仕事で、ディーラーとお客さんの間に入って調整するのが私達の仕事だ。

今日、その取引を失敗した。


債券相場が見る見る下がり、お客からの電話が殺到した。

部屋の中は、すさまじい喧騒。
電話の声だってまともに聞こえない。


そんな時、私の目の前にあるモニター電話の課長専用回線が点滅する。

私はこわごわ受話器で点滅画面を叩く。

「400!!400!!」

「えっ?あ、あのウリですか?それともカイですか?で、どちら様ですか?」

ガチャン!

質問に答えることなく、電話は切れる。

ウリカイどっちなのよん!

そうこうしている間にも、相場はものすごい勢いで下落して行く。

とにかく、注文入れないと!

「400!売り!」

私の掛け声に「ダン!!」(←取引成立って意味です)っと言って、ディーラーが親指を立てる。


そして、相場が閉まる。


後にこの時の1枚の伝票が問題となる。

「おい!ちょっと、みんな集まれ!」

奥田課長が部屋のメンバーを集める。

「この400億の売り注文を出したのは誰だ?」

「わっ、……私です……」

「客先が書いてないけど、客はどこ?」

「……分かりません」

「じゃ、何で売りを出した」

「多分、売りじゃないかって……」

「多分って、どう言うことだよ!売りか買いかも分からずに発注したのか!?」

「あ、でも、課長の専用回線で電話を取ったから、課長のお客さんだと思います。
だから、私、今、電話して確認してみ……」

「バカヤローーーーー!!!」

奥田課長は私が持っていた受話器を取り上げると、モニター画面に思いっきり叩き付けた。






< 3 / 281 >

この作品をシェア

pagetop