私立秀麗華美学園
9章:それぞれの休暇
8月中旬。

俺は言っていた通り、ゆうかが寮に戻ると言っていたのと全く同じ日に戻った。

部屋に着いて、既に寮へ戻っていた雄吾と少し会話をして、荷物の片付けもそこそこにゆうかの部屋にそわそわしながら内線をかけると、出たのは咲だった。


「和人ー! 久しぶりー! 残念ながら、ゆうかはまだ戻って来てへんよーだ!」

「久しぶり……」


なーんだとため息をつくと咲は笑った。午後の列車で着く言うてたで、と言われて、更に肩を落とす。俺には知らせてくんねーのかよ。


部屋に戻ると、雄吾がうっすらと笑みを浮かべて待っていた。


「……知ってたんだな」

「咲と朝食を摂った時にな。午後一番の列車で戻ると言っていたらしいな」

「言ってくれよ」

「わくわくしている和人が、面白くて」


拗ねてベッドにダイブする。ちぇっちぇっ。何のために早起きして、無駄に世話やいてくる母さんをなだめすかして、家を出て来たんだか。


「和人、荷物を片付けろ。部屋の真ん中にキャリーケースが転がっていては邪魔だ」

「……あとで」

「子供のようなことを言うな」


雄吾はキッチンで紅茶を淹れていた。

慣れた手付きでポットをあやつり、2つのグラスにアセロラ色の液体を注いでいく。片方には既に氷が入っている。氷が入っていない方が俺のグラスだ。砂糖を溶かすために。ティースプーンで1さじ、プラスほんの1すくい、を入れようとして、やめた。ほんの少しの砂糖を容器に戻し、マドラーでかき混ぜる。それから氷を追加して、手間のかかった加糖のアイスティーができあがる。


数週間ぶりに見た雄吾は、なんとなく、大人っぽさが増した気がした。これ以上大人っぽくなったらむしろ老けるっつーの。

洗いざらしのジーンズに、身体に合った白シャツ。休暇中のせいかアイロンがそれほど丁寧にかけられておらず、雄吾の着るものにしてはシワが目立つ。

たったそれだけの服装で男の俺が目を奪われているってどういうことだ。くそう、183cmめ。
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