はぐれ雲。
エピローグ
<ねぇ、新明くん
今、あなたがいるところはどんなところですか?

私の住むところは、四方を山に囲まれた、静かな静かな町。

夏は思ったよりも短くて、

冬は思ったよりも長くて。

春の嫌いな私が思わず、「春はまだかしら?」なんて言ってしまうところ。

でも、とてもとても素敵なところ。

そう、あなたがほんの少しだったけど、暮らしてた町。

そしてあなたが今…眠る町。


私、あなたの歳を追い越しちゃった。

私だけ、こうやってどんどんオバサンになっていくのね。

きっとあなたはこう言うわね。

「おい、ばばぁ」なんてね。

図星でしょ?




ねぇ、新明くん

残念ながら、と言っていいのかわからないけれど、こうやってあなたを想わない日はありません。

空を見ても
花を見ても
川のせせらぎを聞いても、

何かにつけて、あなたを想い出します。

あなたの顔を
あなたの声を

そのたびに、どうしようもないくらい、この胸が痛みます。

無理なのはわかっているのに、

あなたに会いたいって

声が聞きたいって、

私の心が、そう叫びます。

でもね、もう泣かない。

そう誓ったものね。

あれがあなたを想って流す最後の涙だった…

ちゃんと、見てた?

見逃した、なんて言わせないわよ。

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