美しいあの人
第一章

アフター

「エリちゃん。アフター行こう、千鶴のところ行こう」
閉店時間になって客の送り出しをしていたら、
常連客の松井さんから誘われた。
松井さんのことは嫌いじゃない。
仕事をあがった後になにか用があるわけでもない。
それに松井さんと飲むのは他の客と騒ぐよりも楽しいし、
いつも連れて行ってくれる店のことも気に入っている。

しかし快諾するのもなんだかつまらないので条件をつけてみる。
「タクシー代出してくれる?」
 松井さんが大きな声で笑った。
「現金だなあお前。それくらい出してやるよ。外で待ってるからな」
大きな手でむき出しの背中を叩かれた。
ちょっと痛かったがタクシー代プラス飲み代と思えば安い物だ。
松井さんはエレベーターに乗って店を出て行った。

エレベーターが行ってしまった頃合いを見計らって下げていた頭を上げる。
大きく伸びをして店へと戻り、カウンターの隅に置いてあるレコーダーにタイムカードを突き刺す。
がしゃん。
今日も良く働いた。



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