わかれあげまん
誓約
VD棟の廊下に人影はなかった。
が、すぐに廊下の先の入口の方から話し声が聞こえ、それが渡良瀬の声であることに哉汰はすぐに気付いた。
各棟の玄関ホールにはコーヒーの自販機と面談用の簡易テーブルとスツールが一対用意されている。
そこを使っているのだろう。
哉汰は足早にホールへと入って行った。
開けたホールに出た時、渡良瀬が柚の両肩を抱いて揺すっているのが見えた。
長身の渡良瀬を見上げている柚の目は明らかに困惑に歪んでいる。
「だから、あれは美也子ちゃんの売り言葉に買い言葉だったんだって…頼むよ。…機嫌直してくれって!」
「…そ、そんなこともう、あたしには関係な…」
泣きそうな声で渡良瀬にそう言いかけた柚が、ハッと視線を投げてきた。
「…!!」
柚の視線に気付き続いて渡良瀬も振り返ってきたのを合図に、哉汰は無遠慮に二人へ歩み寄る。
「…ふ、藤宮。…何?何か用か?」
「ええ。すいません。これから俺、星崎さんを病院に連れて行かないと。」
凛とした声で告げた哉汰は、
「ですよね?星崎さん」
と柚に同意を求めた。